S1101
多機能走査型X線光電子分光装置(VersaProbe)
1. 型式
アルバック・ファイ社製 PHI5000 VersaProbeII
2. 原理および特徴
X線光電子分光法は、X線の照射により励起された光電子のエネルギーを分析する手法であり、固体表面に含有される元素の種類や化学結合状態を評価することができます。また、これにより検出される光電子は、固体の表面数nm以下の領域からに限定されているため、固体の極表面の領域のみの情報が得られ、非常に表面敏感な分析手法です。このため、有機物、無機物を問わず固体表面の分析手法として広く用いられています。
本装置に搭載されているArクラスターイオン銃は、従来のエッチング法では困難であった有機物材料の低損傷深さ方向分析を可能とし、表面分析においてしばしば問題となる試料表面の汚染の除去にも威力を発揮します。トランスファーベッセルを用いた大気非暴露分析、最小10μmのビームを用いた分析やマッピング測定、帯電中和銃を用いた絶縁材料の分析、紫外光電子分析などとの併用により、様々な材料表面の精密な化学状態解析が可能です。
3. 主な性能、仕様と応用分野
走査型マイクロフォーカスX線源 | 10〜200μmのビーム径 |
---|---|
SXI(Scanning X-ray Image) | 分析位置の正確な決定 |
デュアルビーム帯電中和銃 | 帯電の抑制による絶縁材料の評価 |
Arガスクラスターイオン銃 | 有機物等の低損傷深さ方向分析 |
トランスファーベッセル | 大気非曝露分析 |
加熱冷却ステージ(-120〜500℃) | 結合状態や構造の温度依存性評価 |
デュアルアノードX線源(Mg、Zr) | オージェピークによる妨害の回避 |
紫外光電子分光 | 仕事関数や価電子帯の評価 |
Zalar回転法 | スパッタリング時の深さ方向分解能改善 |
アンスキャンモード測定 | 高速マッピング、ライン分析 |
4. 試料の形状・サイズ
固体(40mm×40mm×8mmtあるいは9mm×18mm×13mmtまで)
5. 分析依頼の際の留意点
試料表面の分析であるため、試料取り扱い時の表面汚染に注意してください。真空中で揮発する試料は測定できません。
6. 応用分野と分析例
- 表面官能基分析【CNT、炭素繊維、触媒担体、表面処理材料】
- 有機物分析【異物、変色部、含F系有機物】
- 無機物分析【触媒、担体、金属、酸化物、窒化物】
- 複合材料分析【LIB、触媒、有機EL、炭素繊維】
-
深さ方向分析【有機半導体、有機EL、ポリマー、LIB、薄膜材料】
Arガスクラスターイオンビーム装置(Ar-GCIB) -
加熱・冷却・大気圧ガス反応分析【触媒、電解質、揮発性材料】
Versaprep(XPS用前処理装置)
7. XPS関連技術資料
- 気相化学修飾を利用した表面官能基濃度の定量(S231, S232, S233)
- Ar−GCIB を用いたLIB 電池負極の深さ方向分析
- Ar−GCIB を用いた有機膜半導体材料の深さ方向分析
- Ar−GCIB を用いた無機材料の表面クリーニング
- 化学結合状態の温度変化の測定