S232
ESCAによる表面官能基濃度の定量(2)
有機物表面の-OH基、-NH2(および-NH)基の気相化学修飾法によるESCA分析
気相化学修飾法とESCA分析を組み合わせることにより、有機物表面の水酸基(-OH基)、アミノ基+イミノ基(-NH2基+-NH基)の濃度を高感度で求めることができます*1。今回は反応試薬にトリフルオロ無水酢酸(TFAA)を用いて試料表面の-OH基、-NH2基および-NH基を化学修飾し、さらに引き続いてアンモニアと気相で反応し、-OH基の化学修飾のみをはずす方法を検討しました。アンモニアとの反応前後にESCA測定を行うことにより、-OH基濃度および(-NH2基+-NH基)濃度を求めることができます。
反応式
(CF3CO)2O | NH3 | |||
-OH | → | -O-CO-CF3 | → | -OH |
(CF3CO)2O | NH3 | |||
-NH2 | → | -NH-CO-CF3 | → | -NH-CO-CF3(No reaction) |
結果
TFAAによる表面化学修飾前後およびアンモニアとの反応後に測定した各試料の表面組成を表1に示します。
試 料 | C | N | O | F | Na | |
---|---|---|---|---|---|---|
PVA | (1)化学修飾前 | 67.1(66.7) | −(−) | 32.6(33.3) | −(−) | 0.32(−) |
(2)化学修飾後 | 42.8(44.4) | −(−) | 21.9(22.2) | 34.8(33.3) | 0.49(−) | |
(3)アンモニア反応後 | 63.9(66.7) | −(−) | 33.9(33.3) | 1.47(−) | 0.74(−) | |
PVP | (1)化学修飾前 | 87.3(88.9) | −(−) | 12.7(11.1) | −(−) | −(−) |
(2)化学修飾後 | 63.4(66.7) | −(−) | 13.6(13.3) | 23.1(20.0) | −(−) | |
(3)アンモニア反応後 | 87.5(88.9) | −(−) | 12.5(11.1) | 0.08(−) | −(−) | |
DADPE | (1)化学修飾前 | 78.9(80.0) | 13.2(13.3) | 7.91(6.70) | −(−) | −(−) |
(2)化学修飾後 | 55.5(59.3) | 7.44(7.40) | 10.6(11.1) | 26.5(22.2) | −(−) | |
(3)アンモニア反応後 | 55.8(59.3) | 7.56(7.40) | 10.6(11.1) | 26.0(22.2) | −(−) |
表1の( )内には参考のため、PVA、PVP、DADPE塗布膜(1)の理論組成とTFAAによって100%各官能基を化学修飾した場合(2)およびアンモニアとの反応後(3)のPVA、PVP、DADPE塗布膜の理論組成を示します。
表1より、PVA、PVP塗布膜表面の-OH基、DADPE塗布膜表面の-NH2基はほぼ100%TFAAによって化学修飾されていることが分かります。また、さらにアンモニアと反応させることにより、-OH基の化学修飾のみがはずれ、-NH2基の化学修飾はほとんど変化していないことが分かります。
*1[参考文献]岡本昌幸、八川亮子、若狭正信、脇阪達司:分析化学、47,261(1998).