S468
Ar-GCIBを用いたLiイオン電池負極表面のXPS深さ方向分析
図1:エッチングに伴うC1sスペクトルの変化
リチウムイオン電池の負極表面には、Solid-Electrolyte Interphase(SEI)と呼ばれる有機および無機の成分を含む被膜が形成され、電池性能に大きく影響することが知られています。このため、SEIについては、その形態や化学状態に関する詳細な解析が求められています。X線光電子分光法(XPS)は、表面から数nmの極浅い領域における元素の化学結合状態に関する情報を、有機、無機を問わず得ることができ、また、エッチングと組み合わせることにより、深さ方向の情報を得ることもできます。そこで、自作したサイクル劣化リチウムイオン電池の負極について、Arガスクラスターイオンビーム(Ar-GCIB)及びArモノマーイオン銃を用いたXPS深さ方向分析を行い、SEIの構造を調べました。
なお、試料は大気非暴露で装置内に導入しました。
図1に示すC1sスペクトルの変化から、SEIにはカーボネートを含む有機成分が多く存在していることが分かります。また、検出された各元素のスペクトルについて成分毎に強度を評価することにより、図2に示すような各化学状態別のデプスプロファイルを得ることもできます。これより、カーボネートを主体としたLiを含む有機成分の存在が示唆されるとともに、LiFやLi2O等の無機成分の分布状態も確認できていることが分かります。このように、XPSはSEIの構造を推定することができる有力な分析手法の一つです。
図2:Liイオン電池負極のXPSデプスプロファイルと推定されるSEIの構造