S233
ESCAによる表面官能基濃度の定量(3)
変性ポリプロピレン表面の–OH基の気相化学修飾法によるESCA分析
気相化学修飾法とESCA分析を組み合わせることで、ポリマー表面の水酸基濃度を高感度に求めることができます。今回は変性ポリプロピレン(PP)表面の水酸基(-OH基)を気相でトリフルオロ無水酢酸(TFAA)と定量的に反応させた後、ESCA測定を行い、検出されたF濃度から表面の水酸基濃度を求めました。ただし、トリフルオロ無水酢酸(TFAA)は-OH基のみでなく、-NH2および-NH基、エポキシ基とも同様に反応するので、-OH基以外にこれらの官能基を含まないことを確認しておかねばなりません。試料表面に-NH2および-NH基が存在する場合には、TFAAで化学修飾した後アンモニアと反応させ、アンモニアとの反応前後にESCA測定を行うことにより、下記の反応式にしたがって-OH基濃度を算出できます。
試料 | 原料 | 成形法 |
---|---|---|
(1) | ホモポリマー | A |
(2) | 変性ポリマー | A |
(3) | 変性ポリマー | B |
反応式
(CF3CO)2O | NH3 | |||
-OH | → | -O-CO-CF3 | → | -OH |
(CF3CO)2O | NH3 | |||
-NH2 | → | -NH-CO-CF3 | → | -NH-CO-CF3(No reaction) |
TFAAとの反応前後に試料表面のESCA測定を行い、表面組成とC1sスペクトルから標準試料の反応率および測定試料表面の -OH基濃度を求めました。
結果
TFAAによる表面化学修飾後の標準試料(PVA、PVP)の表面組成およびC1sスペクトルから、標準試料表面の-OH基はほぼ100% TFAAで化学修飾されていることを確認しました。(ESCAによる表面官能基濃度の定量(2)参照)
PP成形品試料のTFAAによる化学修飾前後の表面組成を表2に示しました。また、表2には、化学修飾後の表面F濃度から推定した-OH基の濃度(F濃度の1/3)を右端に示します。ただし、TFAAは不純物のNaと反応し、トリフルオロ酢酸のNa塩として試料表面に残留している可能性がありますので、これを補正したのが低い方の値です。
試 料 | 化学修飾 | C | N | O | F | Na | -OH基 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
(1)PPホモポリマーA | 無し | 99.9 | - | 0.08 | - | - | 0.02 |
有り | 99.6 | - | 0.34 | 0.06 | - | ||
(2)PP変性ポリマーA | 無し | 99.3 | - | 0.74 | - | - | 0.3〜0.4 |
有り | 97.0 | - | 1.67 | 1.24 | 0.08 | ||
(3)PP変性ポリマーB | 無し | 98.5 | - | 1.54 | - | - | 0.6〜0.8 |
有り | 94.9 | - | 2.76 | 2.26 | 0.09 |