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X149

学振法に準拠する炭素材料粉末の評価

学振法とは日本学術振興会第117委員会によってラウンドロビンテストを経て制定された、X線回折装置を用いて炭素材料の格子定数と結晶子の大きさの測定を行う場合の一般的事項について規定したものです。標準シリコン粉末を内部標準物質として用いることにより、回折ピーク位置、半値幅の補正を行うのが特徴です。黒鉛化があまり生じていない試料(生コークス等)にも適応できますが、002回折線(2θ:26.4度近傍に検出されるメインピーク)のピークプロファイルが明確に確認できることが適応条件となります。今回、学振法に準拠した手法により黒鉛粉末の格子定数と結晶子の大きさの評価が可能となりましたので、下記にその実施例を報告いたします。

試料 黒鉛粉末(Silicon Powder 640bを10mass%混合)
装置 リガク製  RINT-TTRIII型  広角X線回折装置
図1:黒鉛(002)およびシリコン(111)回折面

図1:黒鉛(002)およびシリコン(111)回折面

図2:黒鉛(004)およびシリコン(311)回折面

図2:黒鉛(004)およびシリコン(311)回折面

図3:黒鉛(110)およびシリコン(331)回折面

図3:黒鉛(110)およびシリコン(331)回折面

図4:黒鉛(112)およびシリコン(422)回折面

図4:黒鉛(112)およびシリコン(422)回折面

格子定数の決定

Braggの式d=λ/sinθCから面間隔d002、d004、d110、d112を計算します。

002、004、112回折線の場合      SiSi-C=2θC
110回折線の場合   SSi-C=2θC
Si 標準シリコンの回折角(規定値)
δSi-C 実測プロファイルから求めたシリコンと黒鉛の回折角の差
C 補正された黒鉛の回折角
λ 使用するX線の波長

さらに、これらの面間隔を格子定数a0、c0に換算します。

  • c0(002)=2d002
  • c0(004)=4d004
  • a0(110)=2d110

結晶子の大きさの決定

b/Bから以下に式を用いてβ/Bを求め、真の半値幅βを求めます。

β/B = 0.9981266+0.0681532ν-2.592769ν2+2.621163ν3-0.9584715ν4

b 標準シリコンの観測半値幅
B 黒鉛の観測半値幅
ν = b/B

各回折線について得られたβから結晶子の大きさLを計算します。

  • Lc(002)= 91/β
  • Lc(004)= 99/β
  • La(110)=113/β
  • Lc(112)= 41/β
結晶子の大きさ
  • 002、004回折線から求めた結晶子径は結晶子のc軸方向の厚みLc(002)、(004)を表しています。
  • Lc(002)とLc(004)は一般には一致しないため、併記するのが望ましいとされています。
  • 110回折線から求めた結晶子径は結晶子のa軸方向の幅La(110)を表しています。
  • 112回折線から求められる結晶子径は112方向の結晶子の大きさを与えるためc軸方向の大きさに換算したものをLc(112)としています。
表:格子定数および結晶子径
格子定数 結晶子径
n c0(002) c0(004) c0(110) c0(112) n Lc(002) Lc(004) Lc(110) Lc(112)
1 6.7130 6.7125 2.4614 1.1554 1 3124 1736 6855 184
2 6.7132 6.7122 2.4613 1.1553 2 3255 2027 6406 194
3 6.7110 6.7118 2.4613 1.1555 3 3544 2027 7464 184
4 6.7125 6.7119 2.4614 1.1556 4 2793 1701 6010 196
5 6.7123 6.7118 2.4615 1.1555 5 3712 2128 5662 185
平均 6.7124 6.7120 2.4614 1.1555 平均 3286 1924 6479 189
偏差 0.0009 0.0003 0.0001 0.0001 偏差 360 192 708 6
学振法での有効数字
平均 6.7124 6.7120 2.4614 1.1555 平均 3300 1900 6500 190
偏差 0.0009 0.0003 0.0001 0.0001 偏差 360 190 710 10

格子定数

学振法では格子定数の有効数字はÅ単位で小数点以下3桁とされています。

実際に基準を満たす結果が得られました。

結晶子の大きさ

学振法では結晶子の大きさの有効数字は整数2桁までとされています。

以前は結晶子の大きさは1,000Åを限度とし、それ以上は>1,000Åと記述するように規定されていました。近年ではコンピュータによるプロファイル処理能力の向上により半値幅の測定精度も向上しており、必ずしも1,000Åが測定限度と考える必要はなくなりました。しかし、結晶子の大きさは半値幅の逆数に比例するため、結晶子が大きくなるほど測定精度が低下してしまいます。

今回の実験でも1,000Åを超えるLc(002)、Lc(004)、La(110)では誤差の大きな結果になりました。一方、ピークプロファイルがブロードであり、結晶子の大きさが100Å以下と小さい場合には、非晶領域に近づくことからX線回折による定量的な評価が困難になります。学振法(X線回折法)で結晶子の大きさを定量的に評価する場合は、100〜1,000Åの範囲で議論するのが妥当であると考えられます。

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