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電子エネルギー損失分光(EELS)
電子エネルギー損失分光法(Electron Energy Loss Spectroscopy, EELS)は、入射電子が試料物質との相互作用によりエネルギーを失った非弾性散乱電子を分光することで、試料の元素組成や化学結合状態を解析する手法です。走査透過型電子顕微鏡(STEM)と組み合わせることにより、微小領域を高い空間分解能で測定できます。
1. 原理
図1:EELS分光器の模式図
試料中でエネルギーを失った電子は、失ったエネルギーに応じて磁場形プリズム(分光器)によって分光され、損失した電子のエネルギー強度分布をスペクトルとして表します。このうち内殻電子励起に伴うエネルギー損失ピーク(コアロスピーク)を用いて、試料中に含まれる元素組成および化学状態を知ることができます。
2. 特徴
- エネルギー分散型X線分光法(EDS)で困難な軽元素の分析が行えます。
- 高エネルギー分解能(約1eV)な分析が行えます。
- STEMとの組み合わせで高空間分解能(約0.2nm)な分析が行えます。
- 測定元素によっては化学結合状態の分析が行えます。
3. 測定例
Ti系化合物のエネルギー損失スペクトルを図2、3に示します。図2のゼロロスピークはエネルギー損失を伴わない透過電子、プラズモンピークは価電子の集団励起によるものです。図3はTi-Lのコアロスピーク付近を拡大したスペクトルです。Tiの結合状態の違いにより、スペクトル形状やピーク位置が変化する様子が分かります。
図2:TiO2(anatase)のエネルギー損失スペクトル | 図3:Ti系化合物のTi-Lコアロススペクトル |