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カーボン材料のラマンスペクトルの励起波長依存性
ラマン分光法はカーボン材料の構造に関する重要な評価法の一つであり、特に1,350および1,600cm-1付近にそれぞれ検出されるDバンドおよびGバンドのピーク面積比(D/G比)は、欠陥量に対応するパラメータとして広く用いられています。しかしながら、以下に示しますように、Dバンドは励起波長依存性を示すため注意が必要です。
励起波長 (nm) |
エネルギー (eV) |
D-band (cm-1) |
D/G |
---|---|---|---|
785 | 1.58 | 1324.5 | 0.77 |
632.8 | 1.96 | 1333.8 | 0.70 |
532 | 2.33 | 1352.3 | 0.42 |
441.6 | 2.81 | 1372.5 | 0.17 |
325 | 3.82 | - | - |
表1:Dバンドピーク位置とD/G比
図1は同一のグラファイト試料に対し、異なる波長のレーザを用いて測定したラマンスペクトルです。なお、各スペクトルはGバンドのピーク強度で規格化してあります。これより、励起波長の減少(エネルギーの増加)に伴い、Dバンドのピーク位置が高波数側に変化し、ピーク強度も変化していることが分かります。
さらに、各スペクトルに対しピークフィッティングを行い、得られたDバンドのピーク位置とD/G比を表1にまとめます。これより、励起波長の減少とともに、Dバンドのピーク位置は単調に増加し、D/G面積比は単調に減少していることが分かります。これらの変化はカーボン材料で一般的に観測されることが報告されており*1*2 、特に、カーボン材料の結晶性を試料間で比較する際に、D/G比を用いて評価する場合には注意が必要となります。
図1:ラマンスペクトルの励起波長依存性
- *1 M. J. Matthews et al.: Phys. Rev. B 59 (1999) R6585.
- *2 K. Sato et al. : Chem. Phys. Lett. 427 (2006) 117.