S342
ラマン分光法による単層カーボンナノチューブの欠陥評価
カーボンナノチューブのラマンスペクトルには、1,350cm-1付近にD-bandと呼ばれる振動モードが観測されます。このモードは、結晶性の良いグラファイトではラマン活性でないため観測されませんが、欠陥の導入により対称性が乱れた場合、ラマンピークとして観測されます。このためD-bandと、グラファイトのラマン活性モードと同種の振動モードであるG-bandのピーク強度比(G/D比)を用いて、欠陥量を評価することができ、G/D比の高いものが欠陥量が少なく、品質が高いと考えられます*1。
図1はCNI社製のHiPco法による単層カーボンナノチューブAs Produced及びPurifiedのラマンスペクトルです。1,350cm-1付近にD-bandが観測され、1,600cm-1付近には、金属共鳴したFano型のスペクトルを伴ってG-bandが観測されています。
各ピークを分離し1,590cm-1付近のG+-bandとD-bandのピーク強度を求めると、
As Produced | :IG+=5,054、ID=947 |
Purified | :IG+=2,546、ID=292 |
となり、G/D比(G+-bandの強度/D-bandの強度)は、
As Produced | :G/D=5.3 |
Purified | :G/D=8.7 |
と算出されました。これより、G/D比の高いPurifiedの方が欠陥量が少ないと考えられます。
PurifiedはAs Producedの精製品ですが、この精製の工程で欠陥を多く含むナノチューブが消失したものと考えられます。
図1:単層カーボンナノチューブのラマンスペクトル
*1 齋藤理一郎,篠原久典「カーボンナノチューブの基礎と応用」培風館(2004).