S173
ESCAによる触媒表面の分析
ESCAによる触媒の分析では、触媒表面に存在する元素の化学状態を調べるとともに、スペクトル上で数種の化学状態が確認された場合、その割合を求めることが重要です。比較的単純なスペクトルの場合、ガウス関数あるいはそれとローレンツ関数の混合によるピーク分離がよく用いられます。しかし、金属や幾つかの有機化合物のESCAスペクトルは本質的に非対称な波形持っているため、このような場合にはそれに適した関数を作り解析する必要があります。特に Fe、Ni、Co などの遷移金属イオンでは、ESCAスペクトルは複雑であり、しかもそれらは状態が異なっても化学シフトは小さく互いに重なりあっています。そこでこのような場合は、因子分析(フアクターアナリシス)をESCAスペクトルに適用してピークの分離を行います。
ここでは、分析例として、有機合成の酸化脱水素反応に用いられるリン酸鉄のピーク分離を示します。
リン酸鉄触媒中の鉄の状態にはFe2+、Fe3+が含まれており、これをピーク分離するため、次のように行います。
- 予め標準物質(Fe2+P2O7、Fe3+PO4)のスペクトルを測定しておきます。
- 測定されたスペクトルを標準試料のスペクトルでカーブフィッティングします。
- スペクトルの混合割合から、触媒の中のFe2+、Fe3+の割合を求めます。
図1に触媒3種(使用直後、使用中、長時間使用後)について、ピーク分離した例を示します。
このように、複雑な形状のスペクトルであっても、状態別の割合を見積もることができ、触媒表面について、より深い情報を得ることができます。