高分子材料の劣化評価
〜DSCと高温GPCの比較〜
DSC(示差走査熱量分析)による融点の比較と高温GPC(ゲル浸透クロマトグラフィ)による分子量、分子量分布の比較の2種類の方法を合わせて評価を行うことで、高分子材料の劣化の状況をより正確に捉えることが出来た例をご紹介します。
試料としてNIST1475[高密度ポリエチレン(HDPE);American Polymer standards corporation製]を用い、新品をNIST1475_new、 経年劣化品をNIST1475_oldとして比較を行いました。経年劣化品は刃物を当てるともろく崩れ落ち、明らかな経年劣化が疑われる状態でした。
1. DSCによる融点の比較
DSC測定により観察された融点を比較することで、劣化の評価を行いました。(図1)融点のピークトップの比較においては0.9℃、補外融解開始温度の比較では1.1℃、劣化品の融点は低下しました。しかしこのわずかな差のみをもって、試料の劣化の有無を言及することは難しい結果となりました。
図1:DSC測定による新旧NIST1475の融点の比較
2. 高温GPCによる分子量と分子量分布の比較
高温GPCによりポリスチレン換算重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、分子量分布(Mw/Mn)を算出し表1にまとめました。また、図2に新旧NIST1475の微分分子量分布曲線の比較を示しました。
Mw | Mn | Mw/Mn | |
---|---|---|---|
NIST1475_new | 137,910 | 36,881 | 3.7 |
NIST1475_old | 26,598 | 6,610 | 4.0 |
図2:新旧NIST1475の微分分子量分布曲線の比較
表1によると、新品と比較して、劣化後の試料では平均分子量Mn、Mwが共に大きく低下しました。さらに図2からも、劣化品NIST1475_oldのピークがNIST1475_newよりも低分子量側に大きくシフトしていることが確認できます。このことから、劣化品NIST1475_oldでは低分子量成分が増加しており、劣化に伴う分子鎖切断が起きたことが示唆されました。
このように、複数の方法を合わせて評価を行うことで、劣化の状況をより正確に捉えることが可能となりました。