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O546

IR測定法(ATR法)

赤外分光分析(IR)は、有機物の代表的な分析法のひとつとして、古くから広く用いられており、サンプルの状態や目的に応じて、様々な測定法があります。今回は、代表的な測定法のひとつである全反射測定法(Attenuated Total Reflection、ATR法)について紹介します。

ATR法の原理

図1:ATR法の模式図

図1:ATR法の模式図

クリスタルと試料を接触させた後、クリスタル内部を透過させた赤外光を、試料との界面にて全反射させます。この全反射の際に、試料側へわずかに赤外光が潜り込むため、全反射光を検出することで、試料表面(深さ数µm程度)のFT-IRスペクトルを取得することが出来ます(図1)。

ATR法の特徴:潜り込み深さ

ATR法において、試料への赤外光の潜り込みの深さは、入射角、試料とクリスタルの屈折率、波長に依存します(式1)。参考として、式1より算出した潜り込み深さのグラフを図2に示します。このように低波数側の潜り込みが深いため、ATR法によるFT-IRスペクトルは、透過法によるFT-IRスペクトルと比較し、低波数側の吸収が強く現れます(図3)。なお、試料が柔らかい場合には、クリスタルを押し当てた際に、測定表面が薄く押し広げられ、想定以上の深さまで、赤外光が潜り込むことがあります。

図2:ATR法の模式図   式1: dp = Λ / 2πn1 √ sin2θ - (n2/n1)2

(式1)

dp :潜り込み深さ
λ :波長
θ :入射角
n1 :クリスタルの屈折率
n2 :試料の屈折率
図2:ATR法における潜り込み深さ  
図3:ポリスチレンのFT-IRスペクトル(ATR法、透過法)

図3:ポリスチレンのFT-IRスペクトル(ATR法、透過法)

ATR法の特徴:クリスタルの特徴

ATR法においては、波数によって潜り込み深さが異なりますが(上述)、クリスタルの種類(屈折率の違い)によっても潜り込み深さが異なります(図2、図4)。また、それ以外にもクリスタルによって、様々な特徴があります。表に、代表的なクリスタルとして、ゲルマニウムとダイヤモンドの特徴を示します。目的や試料状態と、これらの特徴を照らし合わせ、実際の使用するクリスタルや測定法を選定します。

図4:ポリスチレンのFT-IRスペクトル(ATR法)

図4:ポリスチレンのFT-IRスペクトル(ATR法)

表:クリスタルの特徴
  ゲルマニウム ダイヤモンド
クリスタルの屈折率 4.0 2.4
材質の強さ
  • 比較的弱い
  • ・酸により腐食
  • ・硬い試料により損傷
強い
スペクトル ・比較的透過法のスペクトルに近い
  • ・測定領域に吸収あり
    (1700〜2700cm-1*1
  • ・ゲルマニウムと比較し、
    ピーク形状が歪みやすい*1
    (試料の屈折率が高い場合、等)
潜り込み深さ ゲルマニウム < ダイヤモンド
測定可能な波数領域 1回反射法 650〜4000*2 cm-1 400〜4000*2 cm-1
顕微法 700〜4000*2 cm-1
イメージング法 900〜4000*2 cm-1
  • *1 図5を参照
  • *2 装置の仕様により異なりますが、通常4000cm-1まで(中赤外領域)を測定
図5:タイヤのFT-IRスペクトル(ATR法)

図5:タイヤのFT-IRスペクトル(ATR法)

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