MALDI-MSによるシリコーンオイルの定性とMSイメージング
シリコーンオイルはシロキサン結合を主骨格とする合成高分子であり、その優れた化学的・物理的性質から、工業用の潤滑剤や化粧品の基材など幅広い用途で使用されています。種々の用途に対応するため、シリコーンオイルの構造(側鎖、末端官能基等)も多様化しており、それらを分類して分析する手法としてMALDI-MSは非常に有効です。
本報告では、種類(側鎖、末端官能基)の異なるシリコーンオイルにおける構造解析と、紙に染み込ませたシリコーンオイルのMALDIイメージングの分析事例を紹介します。
図1に、3種のシリコーンオイル(ポリジメチルシロキサン:PDMS(トリメチルシリル(TMS)末端、ヒドロキシ(OH)末端)およびポリメチルフェニルシロキサン:PMPS)のマススペクトル(MALDI)を示します。2種のPDMSにて、繰り返しユニット(Si(CH3)2O:m/z74)に相当するイオン分布が検出され、ポリマー解析ソフト(Polytools;Bruker Daltonics製)により、末端基がそれぞれTMS、OHと同定されました。また、PMPSにおいても繰り返しユニット(SiCH3(C6H5)O:m/z136)に相当するイオン分布が検出され、末端基の同定も可能でした。
図1:シリコーンオイル(3種)のマススペクトル(MALDI)
次に、この3種のシリコーンオイルを紙に染み込ませ、マトリックスを噴霧した後、rapifleX(Bruker Daltonics製)(技術資料「マトリックス支援レーザー脱離イオン化-タンデム飛行時間型質量分析計(MALDI-TOF/TOF-MS)」参照)にてMALDIイメージングを行いました。図2に、紙に染み込ませたシリコーンオイルのMSイメージを示します。MALDIイメージングにより、2種のPDMSとPMPSを明瞭に区別して可視化することができました。また、図2中に示した3つの関心領域(Region of Interest:ROI)におけるマススペクトルを図3に示しました。紙面上のMALDIイメージングにおいても同位体分離したマススペクトルが得られ、その分子量情報から構造同定を行うことができます。
図2:紙に染み込ませたシリコーンオイルのスキャナ画像(左)およびMSイメージ(右)
図3:各ROIにおけるマススペクトル(拡大)