カラーフィルターにおける有機顔料のMSイメージング
生体分子や合成高分子、有機顔料などの質量分析に広く普及しているMALDI法を用いて、MSイメージングを行うことが可能です。MALDI MSイメージングは、平面状サンプルをレーザーでスキャンしながら微小領域の質量分析を行うことで、サンプル内での特定の分子の局在を可視化する技術です。臨床分野における生体組織のMSイメージングはすでに数多くの実用例が報告されていますが、材料分野に関するMSイメージングの応用は発展途上にあり、今後の技術開発に期待が高まっています。
本報告では、rapifleX(Bruker Daltonics製)(技術資料「マトリックス支援レーザー脱離イオン化-タンデム飛行時間型質量分析計(MALDI-TOF/TOF-MS)」参照)を用いた、カラーフィルターにおける有機顔料のMSイメージングについて紹介します。rapifleXは旧型機と比べて10倍以上の高速性を有しており、短時間で高解像度のMSイメージを得ることが可能です。
図1にカラーフィルターとその光学顕微鏡画像を示します。赤色(R)、緑色(G)および青色(B)のフィルターが約50×140μmの格子状に序列している様子が観察されました。
図1:カラーフィルターの概観および光学顕微鏡画像
図2にカラーフィルターのスキャナ画像およびMSイメージ(LDI、重ね合わせ)を示します。3色のフィルターのうち、緑色および青色の領域において特徴的なイオンが検出され、そのイオンについて色分け(図2(右)、緑色部、青色部)してMSイメージを作製しました。なお、赤色領域については特徴的なイオンは検出されず、格子部分と区別できませんでした(図2(右)、紫色部)。
図2:カラーフィルターのスキャナ画像(左)およびMSイメージ(LDI、重ね合わせ)(右)
図3に、青色、緑色で特徴的なイオン(m/z575および1,470)のMSイメージとそれぞれの領域におけるマススペクトルを示します。青色(m/z575)の成分については、その分子量と同位体パターンからPigment Blue 15(C32H16N8Cu:銅フタロシアニン)であることが推定されました。また、緑色(m/z約800〜1,800に多数のピーク)の成分については、そのマススペクトルのパターンからPigment Green 36(C32ClnBr(16-n)N8Cu)であることが推定されました。
図3:青色、緑色領域におけるMSイメージおよびマススペクトルと推定化合物
以上のように、MSイメージングは生体サンプルだけでなく、工業材料の局在可視化においても非常に有用な手法であることが示されました。