HOME > 分析対象 > 材料 > 有機材料
O538

NMR多変量解析による食用油の組成解析

多変量解析とは、精製や分離を必要とせず、多数のスペクトルやシグナルから、その試料群内での各試料の傾向や特徴を探る解析手法です。多変量解析の代表的な手法として、主成分分析が挙げられます。主成分分析のひとつであるスコアプロットにおいては、類似する試料同士は近くに、差異がある試料同士は遠くにプロットされます。そのため、ある試料群の中において、各試料の傾向を探る手がかりとなります。また、NMR分析は、試料中に含まれる有機成分を、とりこぼしなく検出することに適しており、その各シグナルの大きさは組成比を反映しているため、有機成分の組成の違いを調べるための手法として優れています。そこで今回は、これらの特長を利用した解析事例のひとつとして、15種の食用油についてNMR多変量解析を行った結果を紹介します。

図1に、15種の食用油の1H-NMRスペクトルについて、主成分分析(スコアプロット)を行った結果を示します。その結果、オリーブオイルからグレープシード油にかけて帯状に各食用油が分布し、あまに油及びえごま油は、そこからやや離れた所に分布していることが分かります。食用油の主成分は、異なる脂肪酸骨格(リノール酸、リノレン酸、オレイン酸等)を有するトリグリセライドの混合物と言われています。このことから、今回のスコアプロットにおける分布は、その組成比の違いを反映した結果であると推定されます。つまり、オリーブオイルからグレープシード油にかけて、脂肪酸骨格の組成の違いに何らかの傾向があり、また、あまに油及びえごま油は、それとは異なる傾向があると推定することが出来ます。

図1:食用油(15種)の主成分分析結果(スコアプロット)

図1:食用油(15種)の主成分分析結果(スコアプロット)

さらに今回は、上記の主成分分析(スコアプロット)による推定が妥当であるかどうかを検証するため、別途異なる手法にて、各食用油の脂肪酸骨格の組成比を調べることとしました。トリグリセライド中の脂肪酸骨格について誘導体化(分解/エステル化)を行った後、GC/MS分析及びGC分析にて、各脂肪酸骨格の定性/定量(面積百分率)を行いました(図2)。

図2:食用油(15種、誘導体化後)のGC面積百分率

図2:食用油(15種、誘導体化後)のGC面積百分率

この結果と、主成分分析結果(スコアプロット)を照らし合わせた結果、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸の量的関係とスコアプロットにおける各試料の分布には、良好な相関があることが分かりました(図1中に矢印で示した)。図2は、おおよそオレイン酸骨格割合の大きさの順に並べてありますが、この順とスコアプロットにおける帯状の分布の順がほぼ一致していることが分かります。リノール酸及びリノレン酸についても同様に照らし合わせた結果、良好な相関があることが確認されました。

以上の結果、NMR多変量解析(主成分分析/スコアプロット)により、食用油の組成の違いの評価が可能であることが確認されました。今回は食用油の事例を紹介しましたが、NMR多変量解析は、様々な有機物を含む試料群について適用できると考えられ、それらの特徴や傾向を捉えることのできる手法として、様々な活用が期待されます。

【出典】
大田陽介、早河裕子、岡田明子、平田真吾、塩成さゆり、森美詞、則武智哉:
NMR多変量解析による食用油の熱劣化解析, 第55回NMR討論会, 広島, 2016

前のページに戻るこのページのトップへ