MALDI-MSによる合成高分子の分析
MALDI法は代表的なソフトイオン化法で、分子量数千〜数十万の生体高分子(タンパク、ペプチド、糖鎖など)において、質量分析による同定や解析を行うことができます。また、生物分野のみならず合成高分子の構造解析にも有効であり、応用の幅が広がっています。
本報告では、MALDI-MSを用いた数種類の合成高分子の分析事例を示し、その解析結果について紹介します。
ポリエチレンテレフタレート(PET)
図1にPETのマススペクトルを示します。m/z 3,000付近まで等間隔のイオンピークが検出され、その質量間隔(m/z 192)がPETの繰返しユニット(C10H8O4)と一致しています。
図1:PETのマススペクトル(挿入:m/z 580〜1,250付近の拡大)
ナイロン
図2にナイロン6のマススペクトルを示します。m/z 6,000付近まで等間隔のイオンピークが検出され、その質量間隔(m/z 113)はナイロン6の原料モノマーであるカプロラクタム(C6H11NO)と一致しています。
図2:ナイロン6のマススペクトル(挿入:m/z 550〜1,050付近の拡大)
標準ポリスチレン(PS)
図3に標準PS(GPC Standard)のマススペクトルを示します。m/z 6,000付近に極大値をもつ正規分布型のイオンピークが検出され、その質量間隔(m/z104)はPSのモノマーユニット(C8H8)と一致しています。
図3:標準PSのマススペクトル(挿入:m/z 5,250〜5,750付近の拡大)
さらに、ポリマー解析ソフトPolytools(Bruker Daltonics製)を用いて、より詳細な構造解析を行いました。図4にPSのPolytools解析結果を示します。Polytoolsでは、モノマーユニット、両末端基構造、アダクトイオン、数平均および重量平均分子量(MnおよびMw)、多分散度(Mw/Mn)および重合度などを解析することが可能です。この解析より、分析に用いた標準PSの末端基は水素およびブチル基であることが同定され、Mwおよび多分散度は試薬メーカーのカタログ値とほぼ同等の値であることが示されました。
図4:Polytoolsによる標準PSの解析結果