NMRを用いた医薬品分析(純度試験、確認試験)
1.定量NMRによる医薬品の純度分析
近年、NMRによる定量分析は、精度の高さとSI単位系へのトレーサビリティが確保可能な分析法であることから、注目を集めています。公定法としても採用され始めており、薬局方や食品添加物公定書に掲載され、日本工業規格(JIS)への掲載に向けた議論も始められています。医薬品分析においても、純度分析法として定量NMRの利用が広がりつつあります。
例えば、HPLCやGC等のクロマトグラフィーによる純度分析においては、定量対象成分の標準品がなければ、純度分析を行うことができません。簡易的な純度分析として、検出された全ピークの面積百分率を純度とすることもありますが、原理や検出器によって、検出可能な成分や感度が異なるため、正確な純度にはなりません。
一方、NMR分析では、適切な測定条件下でのシグナル積分比は、化合物の種類に依存することなく、1Hの存在比(モル)を示します。そのため、定量対象成分そのものを用いなくとも、任意の内標準物質を代わりに用いることで、純度分析を行うことが出来ます。また、その内標準物質が、値付けされたトレーサブルなものであれば、純度分析結果にトレーサビリティを与えることが出来ます。
一例として、下記にサリチル酸メチルの定量NMRの結果を示します(図1)。トレーサブルな内標準物質であるジメチルスルホン(値付けされた純度:99.9%)のシグナルをもとに、下記の式により純度を算出しました。
P std | : | 内標準物質の純度(wt%) |
Wt std | : | 内標準物質の重量(g) |
Mw std | : | 内標準物質の分子量(g/mol) |
Integ std | : | 定量に用いた内標準物質のシグナルの積分比 |
H std | : | 定量に用いた内標準物質のシグナルに対応する1H数 |
P drug | : | 医薬品の純度(wt%) |
Wt drug | : | 医薬品の重量(g) |
Mw drug | : | 医薬品の分子量(g/mol) |
Integ drug | : | 定量に用いた医薬品のシグナルの積分比 |
H drug | : | 定量に用いた医薬品のシグナルに対応する1H数 |
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サリチル酸メチル(医薬品)
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ジメチルスルホン(内標準物質)
図1:サリチル酸メチル及びジメチルスルホン(内標準物質)の1H−NMRスペクトル(定量条件)
2.NMRによる医薬品の確認試験
医薬品の構造を確かめるために行われる確認試験として、紫外可視分光分析や赤外分光分析が行われています。これらの分析では、検体のスペクトルとその医薬品の参照スペクトルとを比較し、同一波長(波数)のところに同様の強度の吸収を認めることを確認することにより行われます。これらに加え、より詳細な構造まで確認できる試験として、NMR分析が活用されています。1H-NMRによる確認試験においては、ケミカルシフト、分裂パターン及び積分比を確認することにより行われます。当社におきましては、ご指定いただいた規格に従った、NMRによる確認試験の実績も豊富にございますので、是非ご用命ください。サリチル酸メチルの確認試験を想定した参考例を下記に示します。
参考例
検体(サリチル酸メチル)の重クロロホルム溶液につき、テトラメチルシランを内標準物質として核磁気共鳴スペクトル測定法(1H)により測定し、δ3.9 ppm付近に一重線のシグナルAを、δ6.9 ppm付近に多重線のシグナルBを、δ7.0 ppm付近に二重二重線のシグナルCを、δ7.4 ppm付近に多重線のシグナルDを、δ7.8 ppm付近に二重二重線のシグナルEを、δ10.8 ppm付近に一重線のシグナルFを示し、各シグナルの積分比A:B:C:D:E:Fは、ほぼ3:1:1:1:1:1であることを確認する。
図2:サリチル酸メチルの1H−NMRスペクトル
シグナル | ケミカルシフト(ppm) | 分裂パターン | 1H数* |
---|---|---|---|
A | 3.9付近 | 一重線 | 3 |
B | 6.9付近 | 多重線 | 1 |
C | 7.0付近 | 二重二重線 | 1 |
D | 7.4付近 | 多重線 | 1 |
E | 7.8付近 | 二重二重線 | 1 |
F | 10.8付近 | 一重線 | 1 |
* 図2の積分比に相当