1H-NMRによる有機顔料(黄色:キノフタロン系)の定量分析
有機顔料は一般的に色相が豊富で鮮明、着色力や透明性が大きく、プラスチック・印刷インク・カラートナー・塗料・繊維染色・その他広い製品に用いられています。 通常、有機化合物の組成や純度を分析する方法として、クロマト分析が一般的ですが、この場合、水や有機溶媒に溶解させる必要があります。 しかしながら、有機顔料は基本的に難溶性であるためにクロマト系での分析が行えない場合が殆どです。一方でNMRはクロマト分析では使用不可能な硫酸等の溶解力に優れる溶媒が使用できるため、有機顔料の分析において有効な手法となり得ます。
今回は1H-NMRによるキノフタロン系有機顔料の定量分析例を紹介します。定量分析に際して、目的の有機顔料が重硫酸中で分解せず、安定であることが前提条件となります。一例として、Pigment Yellow-138(PY-138)の1H-NMRスペクトル(重硫酸溶液)を図1に示します。 上段から順に溶液調製直後、調製1時間後、3時間後、6時間後、24時間後の拡大スペクトルと溶液調製直後の各シグナルの積分絶対値を100としたときの値を示します。 24時間経っても各シグナルの形状および積分強度に変化は無く、分解や構造の変化などが起きていないことが分かります。
図1:PY-138の1H-NMRスペクトル
続いて、図2に8.5ppm付近のダブレットのシグナル(●)の積分絶対値を基に絶対検量法にて作成したPY-138の検量線を示します。 その結果、良好な直線性が得られ、PY-138の定量分析において本法が有効な測定法であることが確認されました。 但し、顔料のシグナルが他成分のシグナルと重なる場合や重硫酸中で分解を起こす顔料の場合には定量を行うことができませんので、それらの事前確認が必要となります。
図2:PY-138の検量線