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NMRにおける1D-TOCSYスペクトル
NMRは、有機化合物の構造解析に有効な分析法です。NMRにて構造解析を行うにあたっては、各シグナルのカップリングやCOSYスペクトルから、水素同士の位置関係から調べていくことが一般的です。しかし、複数のシグナルが、近いケミカルシフトに密集し、重なり合っている場合には、その解析が困難となります。その一例として、グルコースの1H-NMRスペクトル(重水溶液)を図1(下段)に示します。グルコースは水溶液中においてはα型とβ型の平衡状態をとるため、この2種の化合物のシグナル同士が重なり合い、解析が困難となります。
α-グルコース
β-グルコース
今回は、このような場合に有効な測定法のひとつとして、1D(一次元)-TOCSY(TOtal Correlation SpectroscopY)を紹介します。TOCSYスペクトルでは、選択励起したプロトンの隣のプロトンだけではなく、さらに隣、さらにその隣と、連なっているプロトンのシグナルを検出することが出来ます。図1(上段、中段)に、1D-TOCSYスペクトルを示します。α型、β型それぞれの1位を選択励起したことにより、それに連なる2〜6位のシグナルが検出されていることが分かります。このように、1D-TOCSYスペクトルは、密集したシグナルの中から、個々の化合物もしくは、部分構造のスペクトルを取り出すことができ、構造解析を行う上で非常に有効な測定法であることが分かります。
図1:グルコースの1H-NMRスペクトル及び1D-TOCSYスペクトル