NMRにおけるH-H COSYスペクトル
NMRは、有機化合物の構造解析に有効な分析法です。NMRにて構造解析を行うにあたっては、まず水素同士の位置関係から調べていくことが一般的です。その手法の中に、COSY(COrrelation SpectroscopY)と呼ばれる2次元NMR測定手法があります。このCOSYが使われる以前は、ホモデカップリングと呼ばれる1次元NMR測定手法にて行われていました。
図1にイソバニリンのホモデカップリング1H-NMRペクトルを示します。bのシグナルへ選択的にラジオ波を照射することにより、bのシグナルの消去とともに、bのシグナルからのカップリングを消去することができます。その結果、cのシグナルが4本から2本に変化しました。つまり、bのシグナルとcのシグナルの間には、カップリングがあったことを示しており、bとcは結合を介した近い位置に存在することが分かります。ただし、ホモデカップリングでは、シグナル1本ずつに対して測定を行う必要があるため、手間のかかる測定法でした。
図1:イソバニリンのホモデカップリング1H-NMRスペクトル(上段:シグナルbを照射、下段:照射なし)
一方、H-H COSYスペクトルでは、一度に全ての水素のカップリングの有無を観測することができます(図2)。各シグナル間のカップリングの有無は、各シグナルの交点のシグナルの有無にて確認することができます。イソバニリンにおいては、aとcの交点、bとcの交点にシグナルが観測されているため、それらの間でカップリングがあることが分かります。つまり、aとc、bとcは、結合を介した近い位置に存在することが分かります。このように、COSYは水素同士の位置関係を、一度に調べることができる優れた測定法です。
図2:イソバニリンの H-H COSYスペクトル