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NMRの化学シフト値について
1H-NMRの化学シフト値はTMS(テトラメチルシラン)のメチル基の共鳴周波数を0とし、このシグナルとの共鳴周波数のずれを測定周波数で割った値を化学シフト値(単位ppm)として表します。一般に1H-NMRでは-2〜15ppmにシグナルが観測され、化学シフト値は主に電子の密度の大小によって変化します。
電子の密度を変化させる代表的な要因としては、電気陰性度の違いによる分極が挙げられます。TMSとメタノールの構成元素の電気陰性度は、ケイ素1.9、炭素2.6、水素2.2、酸素3.5です。TMSのメチル基は、電気陰性度の低いケイ素原子との分極により水素原子の電子密度が高くなり、高磁場側(0ppm)にシグナルが現れます。これを遮蔽効果と言います。一方、メタノールのメチル基は電気陰性度の高い酸素原子に隣接しているため、酸素原子との分極により、水素原子の電子密度は低くなるので低磁場側(3.4ppm)にシグナルが現れます。
化学シフト値からおおよその部分構造が判別されます。判別された部分構造を繋ぎ合わせることで未知化合物の構造を推定することができます。
図1:メタノール(CH3OH)とテトラメチルシラン(TMS)の1H-NMRスペクトル