電子回折法を用いた炭素繊維の積層構造の評価
炭素繊維は軽量、高強度な材料として知られており、例えば、樹脂などの母材と組み合わせた複合材料として利用されています。炭素繊維の結晶構造はグラファイトと同様であり、炭素原子が平面的に六員環配列し、その平面が積層した構造を有します (図1(a)) 。今回は、繊維軸に垂直な断面 (横断面) および平行な断面 (縦断面) を区別して評価しました。
各断面のTEM像および電子回折パターンを図1(b)〜(e) に示します。ここで、TEM像上の線状コントラストは、積層構造に対応すると考えられます。また、電子回折パターンでは、積層面間隔 (d002)に対応した位置に強度が見られ、試料に周期性が存在すると解釈できます。さらに、縦断面については、TEM像上の線状コントラストが等方的でなく、電子回折パターン上の002反射が円弧状であることから、積層構造に配向性があると推察されます。
図1:(a) 炭素繊維の模式図, 横断面の (b) TEM像および (c) 電子回折パターン, 縦断面の (d) TEM像および (e) 電子回折パターン
この配向性を評価するため、各断面の002反射について、方位角 (β) 方向の強度プロファイルを抽出しました (図2) 。そのうち、縦断面において、X線回折の事例 (技術資料X183) と同様に解析したところ、配向度F=85%と算出されました。
続いて、電子回折パターンの中心から遠ざかる方向の強度プロファイルについて、動径方向に積算しました (図3) 。各断面ともにd-1=2.7nm-1付近にピークが見られ、その逆数 (d=0.37nm)が積層面間隔に対応すると考えられます。また、この値はグラファイトの値 (d=0.34nm) よりも大きく、本試料では積層面間隔が大きくなっていることが示唆されます。
図2:電子回折強度の方位角プロファイル
図3:電子回折強度の動径プロファイル