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トリプル四重極型ICP-MSを用いたマスシフト法
高感度元素分析法である誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)では、試料溶液中に多量の共存成分がある場合、スペクトル干渉の影響を受けることがあります。スペクトル干渉とは、ICPでイオン化された分析対象イオンに対し共存成分から成る干渉分子イオンが同じ質量電荷比(m/z)の場合、ピークが重なり影響を及ぼすことです。このような干渉が起きると定量誤差が生じてしまいます。このスペクトル干渉の低減法として、近年トリプル四重極型ICP-MSを用いたマスシフト法が開発されました。
分析対象イオンと干渉分子イオンは、分析対象イオンの質量数に設定された四重極(QP1)に導かれます。通過した分析対象イオンを含むイオン群はコリジョンリアクションセル(CRC)に導かれ、セル内に導入したリアクションガス(酸素ガスやアンモニウムガス)との反応によって分析対象イオンを異なる質量の分子イオン(プロダクトイオン)とし、検出器で検出します。この時、QP1を通過した干渉分子イオンがリアクションガスと反応しないか、または反応した場合でも分析対象イオンのプロダクトイオンとは別の質量をもつ分子イオンになるために干渉が低減されます。(下図参照)
図:マスシフト法のイメージ
下表にマスシフト法による測定例と定量下限値を紹介します。ただし、多種成分が共存する溶液の場合、高分解能型誘導結合プラズマ質量分析法(HR-ICP-MS)による測定、または前処理(イオン交換、共沈法等)による共存成分の除去を行い、マスシフト法による結果と比較して妥当性を確認する必要があります。
表:マスシフト法による測定例
分析対象イオン | 干渉分子イオン | 反応ガス | 定量下限値*1 |
---|---|---|---|
31P+ | 14N16O1H+,14N17O+ | O2 | 0.05ppb |
32S+ | 32O2+ | O2 | 2ppb |
75As+ | 40Ar35Cl+ | O2 | 0.1ppb |
48Ti+ | 31P17O+,31P16O1H+ | NH3 | 0.1ppb |
*1共存成分の濃度や種類によって変動します