NMRによる無水マレイン酸グラフトポリオレフィンのモノマーおよびオリゴマーグラフト構造の識別
無水マレイン酸グラフトポリオレフィン(MA-g-PO)は、ポリオレフィン系複合材料開発のキーマテリアルとして近年広く利用されています。MAのグラフト構造は、モノマー型とオリゴマー型に大別され*1、そのいずれかによってMA-g-POの複合化能に大きな違いをもたらします。よってこの構造差を識別することは複合材料開発にとって非常に重要です。MA-g-POの1H-1H DQF-COSYスペクトル*2 を図1に、T2フィルタースペクトル*2 を図2に示します。
図1:MA-g-PO 001, 002の1H-1H DQF-COSYスペクトル
図2:MA-g-PO 002の1H NMRスペクトル
上段:シングルパルス
下段:T2フィルター
図1に示したMA-g-PO 001はモノマー型の、 002はモノマー型およびオリゴマー型混合のグラフト構造をそれぞれ持っています。モノマー型のメチン−メチレンプロトン相関とオリゴマー型のメチンプロトン相関は、二次元展開することによって分離識別できることが分かります。
図2は、モノマー型およびオリゴマー型混合グラフト構造であるMA-g-PO 002について、分子運動性に依存するプロトン核の緩和時間T2の違いによってNMRシグナルを区別できるT2フィルター測定の結果です。シングルパルス測定では混合状態のグラフト構造が観測されていますが、T2フィルター測定では、T2フィルターによって分子運動性に乏しくT2が短いオリゴマー型構造が消失し、モノマー型構造のみが観測されています。
*1 宮内康次,斉藤啓治: 分析化学, 55(8), 547, (2006).
*2 Koji Miyauchi, Kyoichi Saito: Magn. Reson. Chem., 50, 580, (2012).