SE012
変異原性試験の種類と複数試験の必要性
変異原性試験にはエームス試験(細菌を用いる復帰突然変異試験)、ほ乳類培養細胞を用いる染色体異常試験、げっ歯類を用いる小核試験など複数の種類がありますが、化学物質によってこれらの試験結果が異なる場合があります。2種類の試験について、その例を表に示しました。
このように1種類の試験だけでは変異原性を検出できない化学物質も存在するため、安全性を重視する医薬品、食品添加物、一般消費財向けの化学物質については、開発段階から、エームス試験と染色体異常試験等を上手く組み合わせてスクリーニングしています。
名称 | エームス試験 | 染色体異常試験 |
---|---|---|
アセトアルデヒド | − | + |
アセトアミノフェン | − | + |
ビフェニール | − | + |
塩化メチレン(ジクロロメタン) | + | − |
ナフタレン | − | + |
- +:陽性、−:陰性
- 染色体異常試験データ集改訂1998年版 監修祖父尼俊雄 発行(株)エル・アイ・シーから引用
発がんのメカニズムは、おおまかに、遺伝子の損傷→突然変異の固定→細胞のがん化という多段階のステップで引き起こされると考えられています。変異原性試験は、発がんのファーストステップである化学物質による遺伝子及びそれを含む染色体への損傷を短期かつ簡便に検出するのに用いられます。一方、発がんに種、性、固体などにより差が見られることが知られています。京都大学原子炉実験所の渡邉正己教授は、染色体維持機構が発がんに関与しており、染色体維持に関わるタンパク質の損傷が発がんの引き金になりうるという上記以外の発がんメカニズム説を提唱しています。