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S455

XPSによる有機薄膜太陽電池表面層の深さ方向分析

光電変換を有機薄膜で行う有機薄膜太陽電池は、無機材料に比べ軽量であることやフレキシビリティ、製造コスト等の面で期待されていますが、有機材料中の励起子の拡散長がSi等の無機材料に比べ非常に短いため、変換効率が低いのが現状です。そこで、変換効率向上のために、光電変換層には効率良く電荷分離できるバルクヘテロ接合構造が提案され、複数の有機材料の混合薄膜が用いられていますが、各成分の分布状態が電池性能に大きく影響することが知られています。ここでは、Arガスクラスターイオンビーム(Ar-GCIB)を用いたXPS測定により、光電変換層の各成分の深さ方向分布状態を調べました。

モデル試料(PCBM:P3HT/PEDOT:PSS/ガラス基板)のXPSデプスプロファイルは図1のように得られ、光電変換層(PCBM:P3HT)と正孔輸送層(PEDOT:PSS)の二層構造を確認することができます。また、光電変換層のO1sスペクトルにはPCBM由来のO=C、O-C結合成分がほぼ1:1の割合で確認でき、P3HT 由来のS-C結合も明瞭に確認できることから、両成分のプロファイルより光電変換層におけるPCBMとP3HTの分布状態を見積もることができます。これより、光電変換層の各成分は一様に分布せず、表面側にP3HTが濃化しPCBMが減少していることが分かります。電子供与体であるP3HTの表面側への濃化は電子の流れを阻害し電池性能に大きく影響すると考えられていますが*1 、このような有機成分の深さ方向の分布状態を明瞭に確認することができます。

図1:有機薄膜太陽電池材料のAr-GCIBを用いたXPSデプスプロファイル

図1:有機薄膜太陽電池材料のAr-GCIBを用いたXPSデプスプロファイル

*1[参考文献]松尾豊「有機薄膜太陽電池の科学」化学同人(2011)

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