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傾斜切削法を用いた有機感光体(OPC)のTOF-SIMS分析(1)
有機感光体(OPC:Organic Photoconductor)は、光を当てると電荷を発生する性質を持つ光電変換素子です。現在、多くのレーザープリンターや複写機に使われており、最も一般的なものが積層型負帯電感光体です。その構造はアルミニウムの導電性基体(Conductive Substrate)上に、1.下引き層(Under Coat Layer:UCL)、2.電荷発生層(Carrier Generation Layer:CGL)、3.電荷輸送層(Carrier Transport Layer:CTL)の三層から形成されています。本報告では、TOF-SIMSによるOPC積層体の傾斜切削面の層構造(深さ方向)分析について紹介します。
図1、2にOPC積層体の傾斜切削面の光学顕微鏡像とTOF-SIMSによるトータル二次イオン像を示します。光学顕微鏡像と別に求めた切削深さから、傾斜切削により有機感光体の断面は約20倍に引き伸ばされていることが分かりました。また、得られたトータル二次イオン像では、光学顕微鏡像にほぼ対応するコントラストが確認されました。
図1:有機感光体の傾斜切削面の光学顕微鏡像 | 図2:トータル二次イオン像 |
次に、得られた二次イオン質量スペクトルから各層の特徴的なフラグメントイオンを抽出し、それらのイオン種を用いて二次イオン像(図3)を求めました。得られた二次イオン像はOPC積層体の構造に対応しており、層構造(深さ方向)の情報を現していることが分かります。
図3:有機感光体の傾斜切削面の二次イオン像
このように傾斜切削法とTOF-SIMSの二次イオン像(ケミカルマッピング)測定を組み合わせることにより、有機多層膜の深さ方向における化学構造に関する情報を得ることが可能になります。