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19F-NMRによるリチウムイオン電池の電解液中のF−の定量分析
リチウムイオン電池の電解液劣化機構の1つとしてPF6−の分解があり、それを見積もるためにF−の定量分析が行われています。F−の定量分析としては、電解液を多量の水で希釈したあと、イオンクロマトグラフィー分析(IC)を行った事例が多く報告されています。しかしながら、この手法ではPF6−の加水分解を完全には抑えることができません。また、フルオロエチレンカーボネート(FEC)などの添加剤は、水で希釈することで容易に分解してF−を生成するため、このような添加剤を含む試料では適用できない場合があります。
これらの欠点を克服するために、弊社では19F-NMRの絶対検量線法によるF−の定量分析も行っています。本手法では、前処理から測定までを大気フリー雰囲気(Ar雰囲気)で行い、また、水を一切使用しないため、PF6−や添加剤の加水分解は起こりません。そのため、添加剤の種類に関わらず、多くの場合で電解液中のF−の存在量を精度良く求められます。
ただし、19F-NMR法はIC法よりも感度が悪く、定量下限はIC法の10μg/g前後に対して200μg/g前後です(妨害物質等の分析阻害要因が無い場合)。そのため、水が存在してもF−が発生しない試料についてはIC法を、FECなどを含む場合には19F-NMR法をお勧めしています。
図1:標準F−の19F-NMRスペクトル
図2:試薬LiPF6の19F-NMRスペクトル